ここまで届く政治:ライオン宰相の徳

「十五銭出して往復切符を買うと一銭のお釣がくる。三円やって五十回の回数券を買うと五銭お釣がくる。これはその以前に無かったことである。通行税廃止以後の事である。記者のうろ覚えが誤りでないならば、これは今の日本の総理大臣、前前内閣の時の頃の大蔵大臣であった浜口雄幸氏の仕事の一つであったと思う。そこで記者は一銭のお釣を受取る毎に浜口さんを思い出して苦笑いする。何だか浜口氏から一銭ずつ分けて貰っているような心持ちがする。浜口氏も随分国家に功労のあった人だろうが吾々が直接に受けつつある恩恵は金一銭である。だがこの金一銭を軽蔑してはならない。吾々の普通平々凡々の生活に金一銭丈でも響いて来たのは浜口氏の徳であるといわねばならぬ。」(中里介山『信仰と人生』)