小島康敬「近世日本思想史における「心」と「形」」

 小島康敬氏の論文「近世日本思想史における「心」と「形」――本居宣長と「型」・宣長論への助走」(源了圓編『型と日本文化』、創文社、1992年、95〜139頁)は、陽明学系(中江藤樹・熊沢蕃山)・朱子学系(藤原惺窩・林羅山)などの人々が思考した心の究明による心の修養という「心法」論にかわり、「礼楽」説を打ち立てた荻生徂徠において「形」の学習を通じた「心」の鍛錬が重視され、本居宣長はその思考枠組を受け継ぎ、徂徠における「先王の道」を日本の「神々の道」へと読み換えたと指摘します。そして「もののあはれを知る」ことは古人の共感の作法・型を身につける努力によって深められるという歌論と同様に、古道論においても「型」の含有する意義を自覚し、『古事記』を「伝統世界の祖型」と捉えて、その世界の解明に挑んだと論じています。