ドナルド・キーン『日本人の美意識』

 日本最初の大衆文学を創出した十七世紀の元禄文学と、平安時代の宮廷文学とを、「型」と「個性」の視点で捉えたのが、ドナルド・キーン著(金関寿夫訳)『日本人の美意識』(中央公論社、1990年)所収の「日本文学における個性と型」というエッセイです。井原西鶴松尾芭蕉近松門左衛門の描く人物や情景は平面的な型(パターン)にはまっていながらも感動を与える。このような新文学は市井人の娯楽のために書かれたが、「同時に、儒教から解放された唯一の場所としての遊里へ、快楽を求めて逃げ出すという逆説的な意味において、儒教の影響を受けていた」(79頁)とキーン氏は指摘しています。