川口泰英『荒野に町をつくれ 三本木原開拓ものがたり』

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 元十和田市民で八甲田雪中行軍関係の歴史作家として活躍する川口泰英氏の著書『荒野に町をつくれ――三本木原開拓ものがたり』(新渡戸記念館ボランティアKyosokyodo(共創郷土)、2016年12月24日発行、北方新社販売、A5判192頁)を、発行者様よりご恵与いただきました。誠に有難うございます。

 十和田に育つ子どもたちや十和田に住む方々が、ふるさとを知り、ふるさとを愛する一助になればとの思いから誕生した一冊であり、新渡戸伝、十次郎、稲造らの活躍を中心に、十和田市(三本木町)のなりたちや発展についてわかりやすく紹介しています。また本文中には関連史料が丹念に引用され、新渡戸記念館ボランティアKyosokyodo(共創郷土)作成の栞も付録されており、十和田の歴史を学びたいという人にとっても有意義な内容となっています。

 目次は次の通りです。

  • はしがき
  • 第一章 手つかずの土地(開拓の町/「無益の野原なり」/有志あらわる/苦労と才覚の人/開拓を願い出る/目指すは三千石/出資を募る/年表1)
  • 第二章 台地に水を(矢神の八十八人/五百六十間では足りない/山を掘り抜け/鞍出山に挑む/埋もれた十七人/天狗山を貫く/山あれば崩せ/谷あれば埋めよ/上水の先走り/立派な橋に/吉助死す/せきれいが飛んだ日/百年後まで/年表2)
  • 第三章 開けゆく町(初めての田植え/「稲生」の名に/町をつくる/『開業之記』/幻の穴堰/十次郎死す/伝死す/年表3)
  • 第四章 大志を継いで(藩がなくなる/開拓再開/軍馬の町に/水争いの末/太平洋の橋/わが骨は太素塚に/陳情三百回の失敗/悲願達成/二市四町をうるおす/初代市長に/百年の大計/新渡戸記念館ができる/年表4)
  • 第五章 未来へ(五千円札の肖像に/大鳥居再建/「奉納」された催事/未来への遺産/「開拓の大恩人」/郷土をつくろう/年表5)
  • あとがき
  • おもな参考図書

 本書は「小学校の高学年以上であればだれでも読めるよう、やさしく書きました。」(はしがき)とあるようにわかりやすい内容ながらから学ぶことが多いです。その中でも、昭和2年(1927)10月7日、新渡戸稲造が祖父・伝の墓参りで三本木を訪れた際、三本木小学校で町民に「三本木開祖の神様」と題して講演したというエピソードは興味深く、その時の稲造の心境は、本書むすびの次の文章に通じるように思います。

 花巻で生まれた新渡戸伝も、盛岡で生まれた新渡戸稲造も、自分の最後の地を三本木に選びました。初めはただの草原であったのに、この地を自分の居場所だと思い力をつくすことで、いつのまにか「ふるさと」になっていたのでした。郷土つまりふるさとは初めからあるのではなく、そこに生きる人々が自分の知恵と勇気でつくり上げていくものなのです。

 この美しく、かけがえのないふるさとをさらにすばらしいものにしていきましょう。そして自分の身の回りにまだ見ぬ「荒野」をさがしだし、そこに新たな「町」をつくっていこうではありませんか。

 新渡戸伝は守護神となり、この町の発展とみなさんの活躍を見守り続けているのです。(183頁)

 多くの方々にお読みいただきたい一冊です。