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藤原暹著『江戸時代における「科学的自然観」の研究』(5)

 第二章第二節第一項では、司馬江漢と並んで地動説を流布した特異な無神論的思想家・山片蟠桃の『夢の代』を考察します。その自然観の中心となる天体論では、志筑忠雄の『暦象新書』をもとに、太陽を中心に五星が回転する地動説の大系は、太陽の引力の作用によっており、太陽の火の妙用の「然らしめられるもの」とされました。さらに『天経或問』からは、火気により万物が和合するという物質観や、天道は人間の吉凶禍福に関わらない自然の作用であることを引用しています。このような科学的物質的な自然観は、従来の仏家や神道の数説を虚妄として批判するものでした。  

  寝るは楽 起きて地獄の夢をみる 寝続けにする之ぞ極楽(江漢)
  地獄なし 極楽もなし 我もなし ただ有物は人と万物(蟠桃
 この両者の和歌は両者の生活態度の相違をも性格の相違をも現わしているであろうが、共に地獄極楽という有神論的な観念を批判した虚無的な「生」を暗示しているのは事実であった。(76頁)