島薗進「天皇崇敬・慈恵・聖徳――明治後期の「救済」の実践と言説」

 島薗進先生より、玉稿「天皇崇敬・慈恵・聖徳――明治後期の「救済」の実践と言説」(36~47頁)が掲載となりました、歴史学研究会編『歴史学研究』第932号(特集「救済」をめぐる言説と実践――歴史の現場から考える(Ⅰ)、青木書店、2015年6月15日発行)をご恵与いただきました。誠に有難く感謝申し上げます。

 「はじめに――天皇崇敬と天皇制慈恵主義」、「Ⅰ 「天皇制慈恵主義」とその初期の形態」、「Ⅱ 明治初期から中期にかけて慈恵の言説の変容」、「Ⅲ 済生会と済生勅語とその反響」、「Ⅳ 明治聖徳論との関わり」の各節で構成されています。
 明治時代に「慈恵」の制度と言説がどのように展開し、天皇崇敬が促されたかについて、「聖徳」についての言説との関係にも注目して論じられ、たいへん勉強になります。
 「大震災と原発災害を経験して改めてきずなや社会の連帯が強調される今日において、人間の尊厳を維持すべき個人と社会の関係のあり方を歴史学の立場から改めて考えていく機会としたい」(歴史学研究会編集委員会「特集によせて」)という、編者の意図と照らすことにより、現在にも繋がるテーマであるように拝察されます。

 

歴史学研究 2015年 06 月号 [雑誌]

歴史学研究 2015年 06 月号 [雑誌]

 

 

岩手民俗の会『岩手の民俗』第11号

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 岩手民俗の会『岩手の民俗』第11号(平成27年3月31日)が発行となり、執筆者への送付分を本日受領しました。(追って、会員各位に送付されます)

 目次は次の通りです。

『岩手の民俗』第十一号発行に寄せて(岩手民俗の会代表 大石泰夫)

〔論文〕

消えた漆掻き道具(工藤紘一) 

民俗神道論に関する一考察――一関市・御嶽神明社一升餅の祝い(佐藤一伯)

分布図から読み取れること――青森県の「疫病おくり」と「虫送り」を例に(吉田満

南部流風流山車の伝承活動における課題(板垣裕仁

〔民俗の窓〕

映像と民俗と私(阿部武司)

虎舞の頭(大石泰夫)

花巻市石鳥谷町内の「餓死供養碑」について(大原皓二)

民俗芸能を教育に生かす取り組み――岩手県矢巾町「不動っ子の集い」(中嶋奈津子)

昭和四十二年(一九六七)のチャグチャグ馬コ(宮内貴久)

「とらや」から始める都市民俗研究(八木橋伸浩)

岩手民俗の会会則

彙報

編集後記

  大石代表が序文で述べていますように、昭和54年(1979)に発足した岩手民俗の会は、平成5年(1993)頃より活動が休止状態に入り、本誌の発行は平成4年8月31日に第10号を発行以降止まっていました。岩手県内外の研究者、愛好者、団体からの要望に応えて再スタートしたのが平成21年(2009)10月、そしてこの度、約23年ぶりに第11号が発行となりました。ここまでの運営委員をはじめ会員、とくに大石代表の献身的なご努力に深い謝意を表さずにはいられません。

 平成23年6月3日の記事(2011-06-03 - 日本学ブログ)にありますように、震災後に岩手民俗の会に入会以来、大石先生をはじめ会員の諸先生と交流する機会に恵まれ、また記念すべき再スタートの第11号に拙い文章を掲載していただき、心より感謝申し上げます。

 序文や編集後記に触れられていますように、岩手民俗の会は広く民俗学に興味のある人の会を目指しており、研究者だけではなく、多くの方々に民俗学の面白さを知っていただき、また専門家も未知の民俗の情報に触れ、研究が発展することを願っています。詳しく知りたい方、入会をご希望の方は、岩手民俗の会ホームページ(http://iwate-minzoku.jp/)をご覧下さい。

地域づくりの新しい課題と人材育成――地域の発想で“異次元の地方創生政策”を

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 月刊『地域づくり』第308号(地域活性化センター、平成27年2月1日発行)の「地域づくりの人材育成」特集に掲載された、岡﨑昌之氏(法政大学教授、地域経営論)の基調論文「地域づくりを担う新しい人材育成」を興味深く読みました。

 現在の地域社会の課題は、ハードなコミュニティ整備では解決できない身近な日常生活レベルで多発しているとし、その課題群を次のように2つの側面に分けて示しています。

【地域社会に蓄積する課題群】

 高齢化や人口減少などによるひずみがもたらした喫緊の課題群。

 高齢者の介護・生活支援、団塊世代の高齢化による大量の要支援者の出現、子育て支援などの福祉分野、産科・小児科の不足などの医療分野、いじめ・ひきこもりなどの教育問題、若者世代の雇用問題、農山村の鳥獣被害、ごみの不法投棄、里山保全などの環境問題、地域社会の安全性など。

 

【将来社会形成型課題群】

 将来の魅力ある地域社会を形成するために取り組むべき地域づくり課題群。

 地域間交流やツーリズムの対象や価値となる、歴史と文化を維持してきた日本の集落や地域の継承や保全。とくに農村漁村の自然景観、生活文化の技(スキル)、祭事等での郷土食、神楽や民謡、棚田、水田への水の管理、治山治水など。 

 岡﨑氏はさらに、後者の「将来社会形成型課題群」について、「このような生活の技は、地域がもつ重要な価値であり、環境教育、郷土教育の視点からも将来に継承されなければならない。……共有できる価値意識の創出、参加と協働をとおして、はじめて美しい町、豊かな暮らしが構築され、それに立脚した活力ある地域が形成できる。そこには新しい人材が集い、新産業創出の可能性もうまれる。」と述べています。

 その上で、地域課題解決のための人材として、自治体職員には地域課題に対応できる専門性やネットワーク、情報収集発信、現場に対応する臨床性が必要であり、住民もまた「日常から、地域に真摯に向き合い、住民として地域に責任を持つことが欠かせない。また自己主張だけでなく、地域と折り合いをなし、地域を相対的に見つめることのできる自律性を備えなければならない。」と指摘しています。

 本稿に一貫する、「地域の伝統や歴史に根付いた発想」すなわち「自らの集落や地域を十分把握することからしか地域課題の発掘はできない。」との提唱は、これからの地域づくりを考える上で示唆に富んでいます。

 なお、注で紹介している岡﨑昌之編『地域は消えない――コミュニティ再生の現場から』(日本経済評論社、2014年)所収の、同氏による第一章「まちづくり論・コミュニティ形成論の経緯」には、「過疎地域等における集落の状況に関する現状把握調査報告書」(総務省地域力創造グループ 過疎対策室、平成23年3月)がまとめた「集落の問題発生状況」が示されています。岡﨑氏が「将来社会形成型課題群」に分類する課題では、伝統的祭事の衰退、地域の伝統的生活文化の衰退、伝統芸能の衰退、農山村風景の荒廃などが深刻になりつつあることが窺われます。

 

月刊地域づくり 第308号 地域づくりを担う新しい人材育成

矢巾町民俗芸能調査報告会

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 矢巾町民俗芸能調査報告書刊行を記念しての報告会が平成27年3月8日(日)午後1時より、矢巾町文化会館(田園ホール)で開催されました。

 矢巾町伝統文化活性化実行委員会の松村正夫委員長が主催者挨拶の後、矢巾町伝統文化調査委員会の大石泰夫委員長(盛岡大学教授)が「矢巾町の民俗芸能総説」を報告。次いで「徳田地区の民俗芸能」について佐藤一伯調査委員(御嶽山御嶽神明社宮司)、「煙山地区の民俗芸能」について小西治子調査委員(もりおか歴史文化館学芸員)・安田隼人調査委員(秋田県小坂町教育委員会)が報告しました。休憩をはさんで「白沢神楽」の上演があり、「不動地区の民俗芸能」について中嶋奈津子調査委員(盛岡大学非常勤講師)・松前もゆる調査委員(盛岡大学准教授)が報告の後、会場からの質問に委員が答える時間が設けられ、伝承の大切さについて熱心な議論が交わされました。

 このような報告会の開催は矢巾町で初めての試みとのことでした。ご指導を頂戴した大石委員長はじめ調査委員の皆様、教育委員会の皆様、伝承団体の皆様に改めて感謝申し上げます。

 なお、今回刊行された『矢巾町文化財調査報告書第40集 矢巾町の民俗芸能――矢巾町民俗芸能調査報告書』(A4判132頁、1700円)、『矢巾町民俗芸能調査報告書 普及版 やはばの民俗芸能』(A5判32頁、800円)は、矢巾町歴史民俗資料館(月曜休館。ただし祝祭日の場合はその翌日)にて販売されています。

 

『明治神宮以前・以後――近代神社をめぐる環境形成の構造転換』

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 藤田大誠、青井哲人、畔上直樹、今泉宜子編『明治神宮以前・以後――近代神社をめぐる環境形成の構造転換』(鹿島出版会、2015年2月20日発行)を出版社様よりお贈りいただきました。誠に有難うございます。
 近代日本の都市や地域社会における、神社に求められた機能や役割について、大正期の明治神宮造営をメルクマールと捉え、神社境内の環境形成におけるダイナミックな構造転換の研究を試みた論文集で、目次は次の通りです。

 序論 近代神社の造営をめぐる人々とその学知――本書の目的と概要(藤田大誠)

 

第Ⅰ部 神社造営をめぐる環境形成の構造転換

 第1章 神社における「近代建築」の獲得――表象と機能、国民と帝国をめぐって(青井哲人

 第2章 戦前日本における「鎮守の森」論(畔上直樹)

 第3章 帝都東京における「外苑」の創出――宮城・明治神宮・靖國神社における新たな「公共空間」の形成(藤田大誠)

 

第Ⅱ部 画期としての明治神宮造営

 第4章 明治神宮が〈神社〉であることの意義――その国家性と公共性をめぐって(菅 浩二)

 第5章 近代天皇像と明治神宮――明治聖徳論を手がかりに(佐藤一伯)

 第6章 外苑聖徳記念絵画館にせめぎあう「史実」と「写実」――北海道行幸絵画の成立をめぐって(今泉宜子)

 第7章 森林美学と明治神宮の林苑計画――近代日本における林学の一潮流(上田裕文)

 第8章 明治神宮外苑前史における空間構造の変遷――軍事儀礼・日本大博覧会構想・明治天皇御大喪儀(長谷川香)

 第9章 明治神宮林苑から伊勢志摩国立公園へ――造園家における明治神宮造営局の経験と意味(水内佑輔)

 

第Ⅲ部 近代における神社境内の変遷と神社行政

 第10章 神田神社境内の変遷と神田祭――祭祀・祭礼空間の持続と変容(岸川雅範)

 第11章 明治初年の東京と霧島神宮遥拝所(松山 恵)

 第12章 近代神戸の都市開発と湊川神社――一九〇一年境内建物立ち退き問題から(吉原大志)

 第13章 法令から見た境内地の公共性――近代神社境内における神社林の変遷と公園的性格(河村忠伸)

 第14章 近代神社行政の展開と明治神宮の造営――神社関係内務官僚の思想と系譜から(藤本頼生)

 第15章 近代神社の空間整備と都市計画の系譜――地域開発・観光振興との関わりから(永瀬節治)

 

第Ⅳ部 基礎的史料としての近代神社関係公文書

 第16章 基礎史料としての東京府神社明細帳――「東京府神社関係文書」目録解題(北浦康孝)

 第17章 山野路傍の神々の行方――「阿蘇郡調洩社堂最寄社堂合併調」一覧解題(柏木亨介)

 

あとがき(藤田大誠)

索引

執筆者略歴

 あとがきに「この学際的論文集が世に出ることにより、今後とも多様な人々が集う研究アリーナ(討議場)で、議論が深められることを心より願い」と述べるように、胸襟を開いて共同研究にあたる環境づくりに努力を重ねてきた編者の誠意が、本書の大きな原動力になったと思われます。そして、明治神宮国際神道文化研究所の出版助成などの心配りが、本書を実現させる暖かい支援になったと拝察されます。

 すべて拝読しないうちに、500頁を超える大著についてコメントするのは無礼と思いつつ、手にとって一部に目を通して、ひとつ感じたことがあります。

 それは、平成32年(2020)に鎮座百年を迎えようとしている明治神宮の教学研究の歩みです。日本を代表する神社とはいえ大正時代に創建した歴史の浅い明治神宮において、「叢書」を編むことの重要性を明治神宮役職員にご教示され、試行錯誤の中で献身的に、同じ神職の心境で、編纂事業に尽瘁されたのは、今年3月に國學院大學教授を退かれる中西正幸先生でした。平成12年より18年まで刊行に7か年、構想からはさらに多くの歳月を費やした、鎮座80年を記念する『明治神宮叢書』全20巻の編纂・刊行事業が、本書に収められた研究成果に果たした貢献は少なくないように思われます。 

明治神宮以前・以後: 近代神社をめぐる環境形成の構造転換

明治神宮以前・以後: 近代神社をめぐる環境形成の構造転換

 

 

『世界の中の神道』紹介記事(『岩手日日』)

拙著『世界の中の神道』(錦正社、平成26年)についての記事が、『岩手日日』(平成27年1月10日)に掲載されました。出版までの経緯や内容について、丁寧に紹介していただき有難うございました。

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世界の中の神道考察 花泉・佐藤さん 研究成果一冊に « Iwanichi online 一関・両磐地方のニュース


世界の中の神道 | 株式会社 錦正社

世界の中の神道 (錦正社叢書)

世界の中の神道 (錦正社叢書)

 

 

「めぐり」と民俗信仰――第31回東北地方民俗学合同研究会

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 第31回東北地方民俗学合同研究会(第878回日本民俗学会談話会)が平成26年12月6日(土)に福島県立博物館で開催されます。

日時:2014年12月6日(土) 13:00~16:30

会場:福島県立博物館 講堂(福島県会津若松市城東町1-25)

テーマ:「めぐり」と民俗信仰

プログラム:

13:00 開会の辞:佐々木長生(福島県民俗学会会長)

    司会:内山大介(福島県民俗学会)

13:05~13:30 村中健大(青森県民俗の会)「十和田湖のトワダ信仰―遠隔地参詣の事例として」

13:30~13:55 齊藤壽胤(秋田県民俗学会)「廻り儀礼の諸相―宮廻り神事からトッコウ、地蔵廻りなど」

13:55~14:20 佐藤一伯(岩手民俗の会)「木曽御嶽山の信仰と観光―岩手神明講と三十八史跡巡りを事例に」

14:20~14:30 休憩

14:30~14:55 デール・アンドリューズ(東北民俗の会)「現代巡礼考―アニメ・ゲームから生まれた聖地」

14:55~15:20 原淳一郎 (山形県民俗研究協議会)「置賜地方における山岳信仰と成年式」

15:20~15:45 菊池健策 (福島県民俗学会)「枡を祀る祭り―御枡廻しをめぐって」

15:50~16:30 総合討議コーディネーター:岩崎真幸(福島県民俗学会)

共催:日本民俗学会・福島県立博物館

※ご来場の方には資料代として500円を申し受けます。

※今年度の東北地方民俗学合同研究会は「めぐり」をテーマに、東北における民俗信仰の地域性を考えてみたいと思います。神仏や霊場をめぐる巡拝・巡礼、来訪神や宗教者が集落をめぐる祭礼や行事、さらに観光やサブカルチャーなどと結びついた現代的な巡礼まで、幅広い意味での「めぐり」というキーワードをとらえます。なお当日、会場となる福島県立博物館では特別展「みちのくの観音さま ―人に寄り添うみほとけ―」(東北歴史博物館と共催)が開催中で、東北地方の観音像や寺宝、絵馬などの奉納物のほか「三十三観音めぐり」などに関する資料も展示しております(展示室は最終入館16:30まで、17:00閉館)。

※懇親会(18:00~/ボンジュール(会津若松市白虎町201 ワシントンホテル内)=会費5,000円。11月30日までに事務局(福島県民俗学会=福島県会津若松市城東町1-25 福島県立博物館内/TEL: 0242-28-6000/担当:内山大介・大里正樹)までお申込み下さい。

平成26年度東北地方民俗学合同研究会チラシ.pdf

第31回 東北地方民俗学合同研究会のお知らせ - 福島県民俗学会 - Yahoo!ブログ