「日本儒林叢書全文データベース」(Jurin DB)と「日本思想史文献データベース」(DoJIH)

f:id:sato189:20160312203350j:plain

 「日本儒林叢書全文データベース」制作委員会・「日本思想史文献データベース」制作委員会の桐原健真委員長(金城学院大学准教授)より、両事業の進捗状況についての報告を書面にて頂戴しました。お心遣い誠に有難うございます。

 「日本儒林叢書全文データベース」は、近世日本の儒学・漢学著作を集成した、関儀一郎編『日本儒林叢書』(1927~1938)をデータベース化し、日本研究や日本文化に関心のある全世界の人々へと発信するものです。
 「日本思想史文献データベース」は、1968年以降の日本思想史関係の論文・著作の目録をデータベース化したもので、英語・中国語・ドイツ語・韓国語・インドネシア語などの多言語による検索も可能です。
 桐原先生とは日本学研究会(藤原暹代表=当時)の第1回研究会(平成16年5月22日、茨城大学)でお目にかかって以来、ご無沙汰しておりますが、ご縁を絶やさず交流が続いておりますことに感謝申し上げますとともに、益々のご健勝とご活躍をお祈り申し上げます。

 

日本儒林叢書全文データベース:Jurin DB

 

日本思想史文献データベース検索

 

盛岡市先人記念館「新渡戸稲造記念室」

f:id:sato189:20160227174306j:plain

 岩手県神社庁の会議や研修に出席するため、2月25日(木)・26日(金)と盛岡市に滞在し、空き時間に盛岡市先人記念館を拝観しました。

 明治期以降に活躍した盛岡ゆかりの先人130人を紹介するこの施設には、新渡戸稲造記念室、米内光政記念室、金田一京助記念室、総合展示室があります。

 このうち、新渡戸稲造記念室には、生涯を『太平洋の架け橋』になろうと国際交流につくした新渡戸稲造の足跡とその業績を、「国際人として」「教育者として」「留学時代とキリスト教」「武士道の心」「私人として」「公人として」「遺品・遺墨」の7項目によって展示しています。

 今回、とくに目にとまった資料が2つありました。

 そのひとつ、明治10年(1877)8月に、母せき(勢喜)が稲造に宛てた手紙に、次の一首が詠まれています。

老松の 千代も八千代と

榮なば みどりも

さかへ 八重も八千代と

 母せきが、稲造の活躍を祈って詠んだ一首のようですが、親が子を思う心をこえて、緑豊かな郷土の発展に思いを寄せることのできる歌のように思います。

 もうひとつは、「出雲大社に詣でて」と題した次の和歌の自筆短冊です。

惟神(かんながら)道一筋に進まんと

思ふ心は神ぞ知るらん  稲造

 新渡戸稲造キリスト教徒ですが、神道に深い崇敬を寄せていたことがこの一首からもうかがうことができるように思われます。このことに興味のある方は、拙著『世界の中の神道』(錦正社、平成26年)をご覧いただければ幸いです。

 また、青森県十和田市の新渡戸記念館をはじめ、全国の新渡戸稲造ゆかりの地を紹介する地図が展示されていました。

 千田順一館長は『盛岡市先人記念館だより』55号(平成27年9月1日)の「新渡戸の『武士道』世間の武士道」において、

 昨今、「サムライ」「武士道」という言葉をメディアで多く耳にする。「サムライ○○」といったネーミングの発想には武勇の面ばかりに着目した印象を受ける。サムライにはサムライの振る舞いがあり、品性が備わっているものであることをどこかへ置き去りにしたような感じがするのである。新渡戸の『武士道』と世間の武士道との違いということになるのであろう。

と述べ、多くの人が『武士道』を手にとることを願っています。

 この提言に加え、全国各地、とくに岩手・青森など東北地方にある新渡戸稲造や新渡戸氏ゆかりの地を訪ね、武士道を培った歴史と文化を学ぶことが大切ではないかと思います。

www.mfca.jp

www.nitobe.jp

世界の中の神道 (錦正社叢書)

世界の中の神道 (錦正社叢書)

 

 

フリッチョフ・シュオン著(漆原健訳)『形而上学とエゾテリスム』

f:id:sato189:20151205121533j:plain

 フリッチョフ・シュオン著(漆原健訳)『形而上学とエゾテリスム』(春秋社、2015年)を訳者の漆原様よりお贈り戴きました。誠に有難うございます。

 著者のフリッチョフ・シュオン氏(Frithjof Schuon, 1907-1998)はスイス生まれの宗教思想家で、本書は「彼の思想の高度な核心部分をこの上もなく明晰な言葉で表現したものであり、私見では彼の最重要著作」(訳者解説、293頁)とされています。

 目次は次の通りです。

序文

序論――認識論的前提

第1部 原理の世界

 完全な形而上学の要約

 神的領域の諸次元、諸様態、諸段階

 実体――主体と客体

 神的性質としての創造

 存在論的ー宇宙論的連鎖

 全能性の諸次元

 普遍的終末論

第2部 伝統の世界

 位格的な面の神秘

 宗教類型論の概要

 二つの秘教

 信仰の世界における欠陥

 宗派的な思弁――意図と行き詰り

 イスラーム秘教の謎と教え

 信仰の言語における陥穽

 反駁不能の宗教

第3部 魂の世界

 感情的要素の両義性

 心理学主義の欺瞞

 美徳の匿名性

 情念と高慢

 試練と幸福

 総括と結論

原註

訳註

訳者解説 フリッチョフ・シュオン、あるいは諸宗教の超越的一性

参考文献

索引

 漆原氏はシュオン氏の思想について、「白色光がプリズムによって多様な色の光へと分かたれるように、ヒンドゥー教・仏教・ユダヤ教キリスト教イスラーム儒教道教シャーマニズム神道やネイティブアメリカンの宗教)などの伝統的諸宗教は、唯一の真理――シュオンはそれを「永遠の叡智」と呼ぶ――から派生してきた虹のようなものであり、表面的・外形的次元においては対立するように見えても内的次元においては究極的に一致する。これがシュオンの根本思想である。シュオンは諸宗教の外形的次元を顕教(エグゾテリスム)、内的次元を秘教(エゾテリスム)と呼ぶ。そして彼の言う形而上学(メタフィジックス)とは文字通り、生成変化(フュシス)を超える現実についての純粋知性による認識であり、それが秘教の核心にほかならない。そして、その認識に到達することが、知性的存在者としての人間の存在理由であり、至福である。」(訳者解説、289頁)と述べています。

 シュオン氏は本書の結びにおいて、「真理と聖性。あらゆる価値はこの二つの言葉のなかにある。」(第3部 魂の世界 総括と結論、238頁)と言い、神道については次のように指摘しています。

儒教神道は来世や霊魂の不滅の観念を明白に認めていない、と論じられてきた。しかしこれは適切ではない。なぜなら彼らは祖先崇拝を行っているからである。死後の世界が存在しないのであれば、この崇拝は無意味であろう。そして日本の天皇が先帝達の霊魂に種々の出来事を厳かに報告することも理由がないことになろう。(第1部 原理の世界 普遍的終末論、81頁)

 なお、本書が紹介する「参考文献」に掲げられたシュオン氏の主要著作には、『霊の像――神道、仏教、ヨーガ』(1961年)もあります。

 

 

形而上学とエゾテリスム

形而上学とエゾテリスム

 

 

動植物供養の民俗――第32回東北地方民俗学合同研究会

f:id:sato189:20151122091757j:plain

「動植物供養の民俗」をテーマとした第32回東北地方民俗学合同研究会(主管:山形県民俗研究協議会)が平成27年11月21日(土)13時より、米沢市の「伝国の杜」置賜文化ホール大会議室で開催されました。

◎日時 平成27年11月21日(土)13:00~16:30
◎会場 米沢市「伝国の杜」置賜文化ホール 大会議室
    〒992-0052 山形県米沢市丸の内一丁目2番1号
◎共催 米沢市教育委員会、公益財団法人農村文化研究所
◎主管 山形県民俗研究協議会
開会(13:00)
青森県民俗の会(13:05~13:30)
 村中健大氏「青森県のソウゼン・馬頭観音信仰」
秋田県民俗学会(13:30~13:55)
 鎌田幸男氏「魚の供養塚などの調査から」
③岩手民俗の会(13:55~14:20)
 松本博明氏「岩手県山田町の動物供養碑-石碑悉皆調査から見えてきたもの」
< 休憩 >
④東北民俗の会(14:30~14:55)
 石黒伸一朗氏「東北の石碑からみた猫の供養」
福島県民俗学会(14:55~15:20)
 二本松文雄氏「福島県相双地方の動物供養習俗-馬・鮭・鯨・亀-」
山形県民俗研究協議会(15:20~15:45)
 角屋由美子氏「草木塔研究の動向と展望」
総合討議(15:50~16:30)
コーディネーター 原淳一郎氏(山形県民俗研究協議会)

東日本大震災被災地の事例報告もあり、石碑には供養と祈願の両方の思いがあること、地域おこしやコミュニティ再生のシンボルとしての可能性があること、第一次産業に関わるものが多いことなどが指摘されていました。
松本博明先生(岩手民俗の会運営委員、岩手県立大学盛岡短期大学部教授)の山田町石碑悉皆調査の報告は興味深く、「花泉地域も調査してみては」と、大石泰夫先生(同会代表、盛岡大学教授)よりお勧めがありました。

 

(※11月26日、プログラム等を加筆しました。)

阪本是丸『神道と学問』

f:id:sato189:20151008124315j:plain

 阪本是丸先生より、『神道と学問』(神社新報社、平成27年9月13日発行、新書版、331頁)をご恵与いただきました。お心遣いに感謝申し上げます。

 『神社新報』「主張」欄や、明治神宮、靖國神社、日枝神社國學院大學日本文化研究所、神社本庁、東京都神社庁、埼玉県神社庁等の機関誌に寄稿した46編を、藤本頼生・國學院大學准教授が編纂した一冊で、目次は次の通りです。

序に代へて(藤本頼生)

 

第一部  主張編――現代神道を読み解く

  • 大嘗祭を振り返って
  • 鎮魂の日を迎へるために
  • 神社と土地問題
  • 生涯学習と神社の役割
  • 地域教学の振興と充実
  • 自然塾キャンプを終へて
  • 祝日を考へる
  • 大麻頒布と神社界の団結
  • 神道系大学の将来
  • 稲作信仰と神道教学の多様性
  • 新入生の季節に想ふ
  • 「神社継承への理念」の現実
  • 新嘗祭減反政策
  • 「高等神職」養成の問題点
  • オウム教事件と「歴史認識
  • 天皇陵」発掘問題について
  • 「清くて高き」歴史観のために
  • 神道と学問
  • 死者たちとの連帯
  • 検定教科書から自由教科書へ
  • 英霊祭祀の教学を
  • 教育の荒廃と大学の使命
  • 神社本庁教学研究叢書に想ふ
  • 皇室典範の段階的改正」とは何か――所教授の所論に寄せて

 

第二部 論述編――近現代の皇室・神社制度と神道文化・國學院

  • 近代日本の根本理念――「五箇條の御誓文」を仰ぐ
  • 五箇条の御誓文から戊申詔書へ――「上下心を一」にして「自彊息まざるべし」の精神
  • 岩倉具視とその時代――近代京都の夜明けと復興
  • 湊川神社を巡る断想
  • 語りつぐ明治維新
  • 明治期における日本文化の激変――文明開化は日本人の生活文化にどのやうな影響を与へたのか
  • 正月と祝祭日――唱歌を中心に
  • 國學院の学問の過去、現在、そして未来――三矢重松の意気
  • 神道と日本文化の国学的研究とは――ブルーノ・タウト伊勢神宮論に触れて
  • 大嘗祭の「本義とは何か」
  • 御大典と神社――皇室と神社
  • 内親王殿下の御誕生と皇位継承論議
  • 門松、鎮守の森、そして家族
  • 付和雷同と和而不同

 

第三部 論述編その2――国家神道論と靖國神社

  • 英霊祭祀と神職
  • 戦後五十年と靖國神社
  • 最高裁国家神道論を問ふ
  • 神社制度の在り方――国家神道体制は是か非か
  • 小泉総理の「靖國参拝」に想ふこと
  • 「何人もわだかまりなく」とは何か

 

第四部 付編

  • 神道と学問』――神職の養成と生涯学習
  • 葦津珍彦著『一神道人の生涯――高山昇先生を回想して』――惟神の道に生きた先生の悲しみ

 

あとがき(阪本是丸)

初出一覧

 添付の御手紙に、「本書に収録された小論を書いた平成二年から平成十八年までの足掛け十七年に亘る歳月は国内外は無論のこと 神社界や勤務校にとつても嘗てない激しい變動の時代でありました その激動の時代を経た神社界や神道系大學の今と将来を考へる聊かの材料として資する處あらば」と、「本書刊行の意義」を述べて居られます。

 ブログ筆者が明治神宮奉職中、同神宮の刊行物にご寄稿を賜った論説も収録されています。また、「或る青年神職と雑談をしてゐた際、その青年が……真剣な眼差しで問ひかけてきた。」(「語りつぐ明治維新」)と、僭越ながら「青年」として登場する場面もあったりと、直々にご指導を頂戴した当時が懐かしく思い出されます。

 本書が論じている内容は、いずれも神社界にとって学術的にも時局的にも極めて重要で、今後も理解と研鑽を深めていくべき問題ばかりです。一編一編を拝読勉強して、その諸問題に取り組む上での知識や心構え、指針を学び、それを継承し少しでも前に進めるよう努めることで、ご芳恩に報いて参りたいと思います。

 

books.jinja.co.jp



 

橋内武「長崎の教会群――その歴史的背景とツーリズム」

 f:id:sato189:20150821094811j:plain

 橋内武先生より、玉稿「長崎の教会群――その歴史的背景とツーリズム」(『桃山学院大学総合研究所紀要』第41巻第1号抜刷、2015年7月、213~241頁)を頂戴しました。お心遣い誠に有難うございます。

 「Ⅰ. はじめに」「Ⅱ. 長崎の教会群――その地理的・歴史的背景」「Ⅲ. 長崎県カトリック教会――地理的分布と教会建築史」「Ⅳ. フランス人宣教師」「Ⅴ. 日本人の棟梁建築家・鉄川与助」「Ⅵ. 西洋の教会建築と日本の伝統工法・技法の融合」「Ⅶ. 『長崎の教会群とキリスト教関連遺産』の世界遺産化」「Ⅷ. 世界遺産化とツーリズムの諸問題」「Ⅸ. まとめと結論」の10章構成となっています。

 長崎のカトリック史を振り返り、五島の教会群が成立した歴史的背景を踏まえつつ、教会建築の特色やフランス人宣教師ド・ロ神父らと日本人棟梁・鉄川与助の交流を示し、「長崎の教会群とキリスト教関連遺産」についてツーリズムの観点から提言を行っています。

 橋内先生は今秋も岩手大学シニアカレッジに参加の途中に一関に立ち寄られ、市内の教会見学をご一緒させて戴く予定です。

 藤原暹先生とのご縁による交流が続いておりますことに、改めて感謝申し上げます。

新渡戸稲造「三本木村興立の話」(柳田國男編『郷土会記録』)

f:id:sato189:20150808183619j:plain

 去る7月26日(日)、岩手県立大学アイーナキャンパスでの岩手民俗の会・平成27年度第1回研究発表会において、「近代日本学者の神道論――その系譜的一考察」と題して、B・H・チェンバレンやW・G・アストン、新渡戸稲造、加藤玄智の神道論について報告しました。

 発表後、会員の吉田満さんから、新渡戸傳・十次郎の三本木原開拓について質問があり、新渡戸稲造自身が東京・小日向台町の自邸を会場に、柳田國男・小田内通敏が幹事となって明治末から大正時代に開催された郷土会の第18回例会(大正2年6月4日)で、三本木の開墾について講演していることを紹介しました。

 吉田さんはこのことに以前から関心を寄せられ、関連する資料のコピーを後日お送り下さいました。小生もちょうど柳田國男編『郷土会記録』(大岡山書店、大正14年)所収の新渡戸稲造「三本木村興立の話」を読み直そうとしていた時でしたので、架蔵本のその部分をコピーして、吉田さんにお送りしました。

 これを機会に、新渡戸家の開墾事業について、小生なりに勉強してみたいと思っています。

 そこで、その最初として、新渡戸稲造の「三本木村興立の話」を翻刻ワープロ入力)してみました。

 この講演録には、三本木開墾に尽くした新渡戸傳・十次郎父子の事績と、三本木(現十和田市)の発展を願う新渡戸稲造の思いがこめられているように思われます。

 ここに参考まで、そのPDFデータを添付いたします。

 

 翻刻 新渡戸稲造「三本木村興立の話」(PDFファイル) 

 

 

世界の中の神道 (錦正社叢書)

世界の中の神道 (錦正社叢書)