W. G. アストン『神道』について(12)
第七章「多神論――自然神」〔The Pantheon ― Nature Deities〕では、「日の女神」〔The Sun-Goddess〕が「神道中最も尊い神」であり、なぜなら、
太古の日本人は甚だ不十分な又きれぎれな風俗の中に、且つ彼等が直接に影響を受けつつある物理的現象の中に、殆ど専ら自然の神威を認めた。就中太陽の温熱と光線と彼等が日常の食物の本源とが第一位を占めてをる。日本に太陽崇拝のあるのは、農業国民たる彼等には特に自然なことである。農夫の仕事の殆どすべてが、此の太陽をたのみ、太陽から支配せられてをるのである。(『日本神道論』、一五七〜一五八頁)
と、日本の太陽信仰が「農業国民」として自然なことであると述べています。
また、「アマテラス即ち天照大神の太陽的性質が不明瞭になつたので、日本人は日輪様、又はお天道様の名の下に太陽をば更に新たに擬人した。」(一六五頁)と神観念の展開について触れ、その道徳的な面について次のように述べています。
神道は組織立つた道徳は含まないが、其の古い神話で話した如く、日の女神の性質の中に道徳的要素が少なからずある。日の女神は其の悪戯な素盞嗚尊のことについて勇気と寛容の徳を備へて居ることが察しられる。又月神が食物の神を殺したのを怒つて御自身の面前から追放した。又其の人間を愛護する徳のあることは五穀の種有用の食物を保存し又播種の法を彼等に示したことによつて証せられる。又岩戸から出て来られた時、神々人々のよろこんだのを見れば、日の女神が慈善心に富んで居られたことも肯かれる。(一六九〜一七〇頁)